「何度言っても直らない」「もう何回注意したか分からない」
そう言う管理職や経営者は多い。でも「何度注意した」という事実が、会社側の記録として残っているケースはほとんどありません。
口頭注意を繰り返すだけでは、問題は解決しません。それどころか、記録のない注意は、法的には「なかった」と同じ扱いになることがあります。
この記事では、問題行動が改善されない社員への対応として、会社が踏むべきステップを整理します。
なぜ「口頭注意の繰り返し」では解決しないのか
口頭注意を繰り返しても状況が変わらない理由は、大きく2つあります。
① 社員側に「本気度」が伝わっていない
口頭で「気をつけて」「次は改善してほしい」と言われても、社員側には「また言われた」という認識にとどまります。書面や面談記録が残らない口頭注意は、会社として本格的な対応に入ったシグナルとして機能しにくいのです。
② 万が一の際に会社側の根拠が弱くなる
懲戒処分や解雇を検討する段階になったとき、「口頭で何度も注意した」という主張は、記録がなければ証拠になりません。労働審判や訴訟になった場合、裁判所が重視するのは書面・記録として残っているものです。
会社が踏むべきステップ
ステップ1:問題行動を「記録」する
まず最初にやるべきことは、注意・指導の内容を文書として残すことです。
記録すべき内容は以下の通りです。
- いつ・誰が・誰に対して指導を行ったか
- 何が問題行動だったか(具体的な事実)
- 改善を求めた内容
- 本人の反応・返答
「指導記録簿」のような書式を用意しておくと、抜け漏れなく記録できます。この記録は、後の対応すべての土台になります。
ステップ2:面談を行い、改善目標を明確にする
口頭注意から一歩進めて、正式な面談の場を設けます。
この面談では以下を明確にします。
- 何が問題なのかを具体的に伝える
- 何をどのレベルまで改善してほしいかを数字や行動で示す
- 改善の期限を設ける(例:1ヶ月後に再確認)
- 面談の内容を書面にまとめ、本人に確認させる(署名が望ましい)
「改善してほしい」という抽象的な伝え方ではなく、「○月○日までに△△を□□の状態にする」という具体的な目標設定が重要です。
ステップ3:改善期間を設けてフォローする
面談後、一定期間(1ヶ月程度)を改善期間として設定し、その間の状況を定期的に確認・記録します。
改善が見られた場合はその事実を記録し、見られない場合も「改善がなかった」という事実を記録します。この期間の記録が、次のステップへ進む根拠になります。
ステップ4:改善が見られない場合、段階的な懲戒処分を検討する
改善期間を経ても状況が変わらない場合、懲戒処分の検討に入ります。
懲戒処分は軽い順に、口頭注意→書面警告→けん責(始末書)→減給→出勤停止→降格→懲戒解雇という段階があります。いきなり重い処分を下すのではなく、段階を踏んで処分を重くしていくことが重要です。
ただし、懲戒処分を行うためには就業規則に懲戒規程が整備されていること、処分の根拠となる行為が規程に明記されていることが前提です。懲戒規程が曖昧・未整備の場合、処分の有効性が争われるリスクがあります。
ステップ5:記録を蓄積し、対応の一貫性を保つ
指導・面談・懲戒処分の記録を一元管理し、対応の一貫性を保つことが重要です。
「Aさんには厳しく対応したのに、Bさんには甘かった」という不均衡な対応は、処分の有効性を損なうだけでなく、職場環境の悪化にもつながります。誰に対しても同じプロセスを踏むことが、会社としての信頼性を守ることになります。
やってはいけないこと
問題社員への対応でよく見られる、やってはいけない対応も整理しておきます。
感情的な叱責・人格否定:問題行動を指摘することと、人格を否定することは別です。「仕事ができない」「向いていない」といった言葉は、パワハラとして問題になります。
いきなり解雇:よほど重大な行為(横領・暴行など)でない限り、指導プロセスを経ずにいきなり解雇すると「解雇権の濫用」として無効になるリスクが高い。
記録なしの口頭対応だけで済ませ続ける:前述の通り、記録のない注意は法的には根拠になりません。
「辞めてほしい」という直接的な発言:退職を強要するような言動は、退職強要として法的リスクを生みます。
この対応ができるかどうかは「仕組み」の問題
問題社員への対応を適切に行えるかどうかは、担当者の力量だけの話ではありません。
- 懲戒規程が就業規則に整備されているか
- 指導記録のフォーマットが用意されているか
- 段階的な対応プロセスが社内で共有されているか
この3つが整っていない会社では、問題が起きてから担当者が一人で対応を考えることになります。それは担当者にとって過大な負担であり、対応の質もブレやすくなります。
問題が起きる前に仕組みを整えることが、結果として会社と従業員の両方を守ることになります。仕組みの整備についてお気軽にご相談ください。
まとめ
- 口頭注意の繰り返しだけでは記録が残らず、法的根拠になりにくい
- 指導記録・面談記録を文書として残すことが最初のステップ
- 改善目標は「具体的な行動・期限」で設定する
- 懲戒処分は段階を踏んで、就業規則の懲戒規程に基づいて行う
- 対応の土台は「懲戒規程の整備」「記録フォーマット」「プロセスの共有」の3つ

