「うちの就業規則、いつ作ったか分からない」
そう言う会社は、実は珍しくありません。設立時に社労士に作ってもらってそのまま、あるいは10年以上前に一度見直したきり——そういう会社が、50〜300名規模の中小企業には多くあります。
ただ、問題は「古い」こと自体ではありません。古いまま放置することで、会社が気づかないうちにリスクを抱え込んでいるという点です。
この記事では、就業規則を長年見直していない会社で実際に起きやすいことを、現場目線で整理します。
就業規則が古いと、何が起きるのか
就業規則が古いことによる問題は、大きく2つに分かれます。
① 法改正に対応できていない
労働基準法や育児・介護休業法は、ここ数年だけでも大きく改正されています。たとえば、時間外労働の上限規制(2019年)、同一労働同一賃金(2020年)、育児休業の分割取得(2022年)、フレックスタイム制の清算期間延長なども順次施行されてきました。
就業規則がこれらの改正を反映していない場合、法律上は認められない運用を社内ルールとして定めてしまっている状態になります。これは、いざ問題が起きたときに会社側の主張が通らなくなる原因になります。
② 実態と就業規則がかけ離れている
もうひとつは、現実の職場運用と就業規則の内容が別物になってしまっているケースです。
「就業規則では9時始業になっているが、実態は8時半から働かせている」「副業禁止と書いてあるが、実際には黙認している」といった状態です。このズレは、労働者から指摘されたときに、会社が非常に不利な立場に立たされます。
よくある「古い就業規則」の実態
現場でよく見る具体的な例を挙げます。
ハラスメント関連規程がない、または一行だけ
パワハラ防止措置の法制化(2022年、中小企業)以降、就業規則または別規程でハラスメント防止に関する定めを設けることが義務となっています。「してはならない」という一文があるだけでは不十分で、相談窓口・調査手続き・懲戒処分との連動まで整備する必要があります。
育児・介護休業に関する記載が古い、または薄い
産後パパ育休(出生時育児休業)や育休の分割取得は2022年の法改正で新設されました。これが就業規則に反映されていない場合、従業員から申請されても「うちの規則にはない」と言えない状況になります。
懲戒処分の規定が曖昧
「重大な違反をした場合は懲戒解雇とする」という抽象的な書き方だけでは、いざ懲戒処分を行うときに「どの行為がどの処分に該当するか」の根拠が弱くなります。問題社員への対応で会社が不利になるケースの多くは、この懲戒規程の不備が根本原因です。
退職・解雇手続きの規定が不明確
退職の申し出から退職日までの期間、引き継ぎ義務、解雇予告の手続きなどが明記されていないと、退職をめぐるトラブルが起きやすくなります。
時間外労働・休日労働に関する記載が実態と合っていない
変形労働時間制を導入しているのに就業規則に定めがない、フレックスタイムの清算期間が古い——こういった状態は、未払い残業の請求が来たときに会社が反論しにくくなります。
「問題が起きてから気づく」では遅い理由
就業規則の不備は、平時には見えません。問題が表面化するのは、退職トラブル・未払い残業の請求・ハラスメント相談・労基署の調査——こういった事態が起きてからです。
そのとき初めて就業規則を確認すると、「この規定では会社側の主張が通らない」という状況になっていることがあります。
労働審判や労基署対応は、いったん動き出すと会社側の準備期間はほとんどありません。そのタイミングで就業規則を慌てて直しても、過去の運用には遡って適用できないのが原則です。
整備は、問題が起きる前にやっておくものです。
では、どこから手をつければいいか
「全部一気に直さなければいけない」と思うと、手が止まります。ただ、実際にはそこまで複雑ではありません。
まず確認すべきは、以下の3点です。
- 最後に就業規則を見直したのはいつか
- 直近5年の法改正(育児・介護休業法、ハラスメント防止措置、時間外上限規制)が反映されているか
- 実際の運用と就業規則の内容が一致しているか
この確認だけでも、問題の所在はかなり絞り込めます。顧問社労士がいる場合でも、「定期的に就業規則を見直す」という動きが実際にできているかどうかは、別の話です。
何から手をつければいいか分からない、現状を一度整理したいという場合は、お気軽にご相談ください。
まとめ
- 就業規則の問題は、法改正への未対応と実態との乖離の2つが主な原因
- ハラスメント規程・育休規定・懲戒規程・退職手続きの不備が特に多い
- 問題が起きてから直しても、過去の運用には遡れない
- まずは「最後に見直した時期」と「法改正への対応状況」を確認することから始める

